
未来へつなぐ和歌山の伝統。改築の匠が語る「温故知新」な家づくり
古き良き街並みと、豊かな自然が共存する和歌山。この地で暮らす人々にとって、家は単なる住まい以上の意味を持つことが多いのではないでしょうか。長年住み慣れた家を、新しく快適な空間へと生まれ変わらせる「改築」。そこには、古いものを大切にしつつ、新しい価値を創造する「温故知新」の精神が息づいています。
今回は、そんな和歌山で長年にわたり改築を手がけてきた、ベテランの大工、田中さん(仮名)にお話を伺いました。職人としての経験と、和歌山の家への深い愛情を持つ田中さんが、何を想い、どのように家づくりに向き合っているのか。その真髄に迫ります。
大工の目に映る「和歌山の家」
長年、和歌山の家を見てきた田中さんの目に、この地の家はどのように映っているのでしょうか。
「和歌山は、特に昔の家は木の素材を活かしたものが多かったですね。地元の木材を使っていることも多くて、それが風土に合っているんです。夏は涼しく、冬は温かい。化学的な建材にはない、木が呼吸するような感覚があるんですよ」
と、穏やかな口調で語ってくれました。しかし、その一方で、時代の流れとともに、そうした伝統的な家づくりが失われつつあることへの懸念も口にします。
「昔の職人さんの技術は本当にすごい。釘を使わずに木と木を組み合わせる『木組み』の技術なんかは、まさに芸術です。でも、そうした技術がだんだん失われ、量産型の家が増えているのは寂しいですね。だからこそ、改築の現場では、昔の職人さんの知恵や技術を『温める』ことを特に意識しています」
田中さんの言葉からは、和歌山の伝統的な家づくりに対する深い敬意が伝わってきます。「温故知新」の「温故」、つまり、古き良きものを深く理解し、その価値を再認識することが、彼らの仕事の出発点なのです。

故きを温め、新しきを知るための工夫
古きものを大切にする一方で、現代の快適な暮らしは欠かせません。では、どのようにして昔ながらの技術と現代のニーズを融合させているのでしょうか。
「一番気をつけているのは、耐震性や断熱性ですね。昔の家は風通しはいいけど、冬は寒かったり、地震への備えが不十分な場合もあります。そういう時は、昔の木組みの良さを活かしつつ、最新の耐震金物や高機能な断熱材を組み合わせていきます」
田中さんは、まるでパズルのピースを組み合わせるかのように、新旧の技術を融合させていくと言います。
「例えば、先日手掛けた物件では、築70年の古民家の改築でした。土壁はそのまま活かしたいというご希望だったので、壁の内側に最新の断熱材を吹き付け、さらに調湿効果のある漆喰を上から塗りました。そうすることで、土壁が持つ調湿作用と、最新の断熱性能を両立させることができたんです。ただ古いものを残すのではなく、現代の技術でさらに価値を高める。これが『温故知新』の『新しきを知る』ことだと思っています」
新しい技術や建材を単に取り入れるだけでなく、昔ながらの家の良さを引き出すための道具として活用する。そこには、職人としての確かな知識と、柔軟な発想力が求められます。
大工仕事に込める「想い」
長年、大工として改築の現場に立ち続けてきた田中さん。その仕事のモチベーションはどこにあるのでしょうか。
「大工になったのは、子どもの頃からものづくりが好きだったから。でも、改築の仕事を始めてから、家が持つ『歴史』を感じるようになりました。壁を壊すと、そこから家族の身長を記した柱が出てきたり、昔の生活の痕跡が見つかったりするんです。そういうものを見ると、これはただの建物じゃなくて、家族の思い出がたくさん詰まった『宝物』なんだな、って感じるんです」
田中さんはそう言って、目を細めます。施主が家に対する愛着や、思い出を語る姿に触れるたびに、自分の仕事の重みを感じるそうです。
「だから、ただ単にボロボロになった部分を直すだけじゃなく、その家の歴史や家族の想いも一緒に残してあげたい。先日も、改築を終えて引き渡した時、施主さんが『ありがとう、またこの家で思い出を作れるよ』って言ってくれて。その時が、この仕事をしていて一番嬉しい瞬間ですね」
単に建物を直すのではなく、家族の歴史を未来へ繋ぐ。その熱い想いが、彼の丁寧な仕事に繋がっているのです。